哲学日記

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zoom RSS 『信のたわむれ』 《あとがき》

<<   作成日時 : 2005/11/04 09:27   >>

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                あ と が き

 本書を生み出した直接の引き金は、ベーシック・ブックス社から白楊社を経由して翻訳・出版された『ゲーデル・エッシャ・バッハ』でした。しかし、その前に田川建三氏、八木誠一氏、故滝沢克巳氏らの一連の著作、および故久松真一氏の著作集(法蔵館)からの読書がその背景にありました。また、これらのひとびととの出会いの切っ掛けを与えてくれたのは、故山本七平氏の『空気の研究』という著作でした。つまり、『空気の研究』から『山本七平(全対話)』というシリーズを経て、梅原猛氏の一連の著作に出会うようになりました。最初は、梅原氏の全対話シリーズが始まりでしたが、宗教、芸術、哲学、自然科学といったところから始まり、自然人類学、文化人類学、アイヌ学、縄文学といった分野まで裾野が広がってしまいました。

 また、小学生の頃から私の興味は精神医学と哲学でしたが、中学生のとき中央公論社から出版された世界の名著シリーズの『フロイト』に出会い、その結果高校を卒業するころまでに日本教文社のフロイト全集をほぼ全部読んでいました。一方、梅原氏の著作を経由して河合隼雄氏の一連の著作と出会うようになり、その結果、ユング心理学あるいは無意識の世界についての大旅行が始まりました。いずれにしても、小学校5年生のとき河出書房の『世界の大思想8パスカル(パンセ)』で出会い、始めて哲学の世界に入門した私は中学、高校時代をフロイト、フランクル、フロムといった精神分析学の系統の著作に耽っていたものですから、当然ながら高校受験に失敗し、また大学受験にも失敗しました。

 ところが不思議なことに偶然の切っ掛けで落合信彦氏に出会い、彼の計らいでアメリカのペンシルベニア州の小さなカレッジに奨学金留学することができました。志望の高校に入れなかったので、高校在学中に駿台予備校で学習する機会があり、そのとき受験勉強とは別に大学の「微積分」と「代数学と幾何学」の教科書を独学で勉強していたこともあり、英語には苦労しましたが専攻の数学では常に高い点数で試験を突破することができました。とにかく、夢中で勉強し、なんとか奨学金をキープしながら無事卒業することができました。また、大学一年生の秋(十九歳のとき)洗礼を受け、熱心なクリスチャンとしての生活が始まりました。

 帰国後はもっぱら熱心な信仰生活に没頭していた毎日でした。ですから、十九歳から三十三歳までは仕事でのコンピュータ関係の知識と聖書関係の知識のみで、かつての哲学や心理学あるいは精神医学の書物を読むことなどほとんどない状態で過ごしてきました。ある意味で幸福な日々でした。

 ところが、三十三歳のとき突然強烈なうつ病になってしまいました。原因はまったくわかりません。とにかく、生きるか死ぬかの瀬戸際まで何回も追い込まれたことだけは確かでした。そして、三年ぐらい決まった職につくことなくアルバイトをしたり読書をしたりするような日々が続きました。その頃読んだのが一連の非キリスト教的なシリーズだったのです。

 その後、うつ病が回復するにつれ、SEの仕事ではなくコンピュータ関係の技術文書を翻訳する仕事やコンピュータ・マニュアルの執筆、つまりテクニカル・ライティングの仕事をするようになり、また会社員(契約社員)生活にもどることができました。その頃から医師に薦められたこともあり、あまりキリスト教だけに熱中するのは感心しない…というようなことを言われて読んだのが『空気の研究』だったのです。また、この頃、小説、童話、民話、昔話、神話、あるいは演劇といったものにも興味を持つようになり、特に好んだのは井上ひさし氏の一連の芝居、丸谷才一氏の一連の『あそび時間』シリーズ、ドストエフスキー、ソルジェニチン、カフカ、安部公房、開高健、ケストナー、ル・グウィン、エンデといった作家たちでした。また、小説やファンタジー以外にも歴史、考古学、文化人類学、心理学、そして精神医学といったものに非常に深く興味をもつようになっていったのです。

 そして、河合隼雄氏や梅原猛氏の一連の著作群に出会い、河合氏からの触発では、ユング、ビンスワンガー、ミンコフスキー、メルロポンティー、フッサールといった系統のひとびと、また、梅原氏からの接触ではハイデッガー哲学について興味を持つようになり、結局、キルケゴール、ニーチェ、M・フーコー、丸山圭三郎、ソシュールといった系列のひとびとの一連の著作と出会うようになりました。

 ところが、四十一歳のとき突然二度目の強烈なうつ病が襲ってきたのです。最初のうつ病も強烈なものでしたが、二度目のうつ病は最初のそれと同じかそれ以上のインパクト持ったものでした。一回目のうつ病のときと同じように生きるか死ぬかのぎりぎりの状況がずうっと続いた後、近くの有機化学工場でドラム缶ころがしの仕事をするようになりました。

 私が『ゲーデル・エッシャ・バッハ』という書物に出会ったのはちょうどその頃でした。つまり、工場でドラム缶をころがして働いていた頃、偶然変った本を書店の店頭で見つけたのです。私自身数学の専攻でしたし、コンピュータのSEとしてずうっと仕事をしてきた関係で何が書かれているかすぐわかりました。ただ、実際に人工知能の具体的なモデルを設計するとなると極めて困難な問題に直面することはよくわかりました。

 それより、私が一番興味を引いたのは《分子生物学》、《大脳生理学(=当時は、)》、《自己言及》、《同型対応》、《もつれる階層》、《ありのフーガ》、《全体論vs還元論》、《蟹のカノン》、《エッシャの絵(=プリントギャラリー)》、《酵素学》、《免役学》、《自己呑込み》といった一連の概念でした。特に数学の”特異点”という概念についてはある程度その”含み”は理解していましたから、ゲーデルの有名な”不完全性定理”については何がポイントかわかっていました。

 ですから、私がダグラス・ホフスタッター氏のアイディアに特に感心したのは非常に高いレベルから非常に微細なレベルまでを実に巧みに捌いているだけでなく、”世界”についての非常に柔軟な解釈についてなのでした。そしてダグラス・ホフスタッター氏が音楽、美術、数学の中に同型対応を発見したのと同じように(これはひとえにホフスタッター氏とその彼の著作を日本語にしてくれた野崎昭弘氏、はやしはじめ氏、それに柳瀬尚紀氏そして鷹尾和彦氏他関係各位の皆さんのお蔭ですが)突然、私の脳裏に《仏教》、《キリスト教》、《無神論》という三声のトリプレットが頭に浮かんだのです。つまり、それぞれが非常に高いレベルで同型対応的に振舞うと同時に、それぞれの関係が相互呑込みの構造になっている、その構造が具体的なイメージとして図式的に浮かんだのです。

 あとは、細かい肉づけをどのような流れで展開するかという問題と、ホフスタッター氏が行ったような数学的な厳密性は除外するとして、少なくともそれなりの知的水準をどのように保たなければならないか…という問題でした。これには、田川建三氏の一連の著作、故丸山圭三郎氏の一連の著作、前田英樹氏の『沈黙するソシュール』、キルケゴールの全著作、特に『不安の概念』、『死に至る病い』、『あれか、これか』、『哲学的断片』、『断片へのあとがき』、『反復』など、それにニーチェの主要な著作、『ツアラトウストラ』、『善悪の彼岸』、『道徳の系譜』、『人間的な、あまりに人間的な(上下)』など、M・フーコー氏の『言葉と物』、フッサールの『現象学の理念』、『内的時間の現象学』、ハイデッガーの『ヘラクレイトス』、ベルクソンの『時間と自由』、メルロポンティの『知覚の現象学』、『シーニュ』といった一連の著作を精読し、必要であれば何度も読み直して少なくとも自分のものにした上で、自分独自の《もの》空間、《ことば》空間、《こころ》空間、という抽象概念、抽象空間にまとめあげたのです。

 もちろん、これらの著作以外にも無数の小説、戯曲、詩、童話、民話、神話、あるいはエリアーデとか、ウィトゲンシュタインとか、ミンスキー(人工知能)とか、ミンコフスキー氏(精神病理学)、ビンスワンガー氏(精神病理学)といったひとびとの著作からのアイディアも明示的にではありませんが、すくなくとも水面下では非常に多く取り入れていることは事実です。

 ダグラス・ホフスタッター氏をはじめここに挙げた著者たちだけでなく、無数の童話作家、あるいは昔話の語り部たち、そして二度にわたる強烈なうつ病から命を救ってくれた内科医の田中良(まこと)先生、不幸にして自殺してしまった友人の***君、私に米国留学の道を開いてくれた作家の落合信彦氏、留学先でお世話になったすべての人々、キリストの教会で素晴らしい出会いを提供してくれたすべての人々、熱心な在家仏教徒であり、私に故山崎弁榮上人の存在を教えてくれた公認会計士の田中豊氏、そして私の異常な人生を常に遠くから見守ってくれている母……、私はこれらすべての人々にお礼を言ってこのあとがきを締めくくらせていただきます。



     平成十一年十一月九日(火曜日)

          おんぼろプレハブにて  

                         吉 田 正 司


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『信のたわむれ』 目次一覧
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第一章 対話すること
一 語ること と 沈黙すること
二 情熱のウロボロス
三 《覚》の徹底化  
四 信じること と 喰うこと (前半)  
四 信じること と 喰うこと (後半) 
五 幻想としての宗教  (前半)
五 幻想としての宗教  (後半)
第二章 分裂病者との対話
一 分裂病者とキリスト教者
二 分裂病者と覚者 (前半)
二 分裂病者と覚者 (後半)
三 分裂病者と天才)
第三章 ことば・こころ・もの
一 ことばの世界(キリスト教世界)
二 こころの世界(仏教世界)
三 ものの世界(無神論世界):前半
三 ものの世界(無神論世界):後半
第四章 ロゴス・反ロゴス・非ロゴス
一 ロゴス空間:前半
一 ロゴス空間:後半
二 反 ロゴス空間:前半
二 反 ロゴス空間:後半
三 非ロゴス空間:前半
三 非ロゴス空間:後半
第五章 衰弱する言語
一 丸山圭三郎(ソシュールの思想)
二 デカルト批判の批判
三 現代の科学者たち
第六章 さよなら

あとがき
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関連作品:
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■ 『拝啓 小学生の皆さんへ』
■ 『拝啓 頭のおかしいおじさんへ』
■ 『インターネットで見た光景』
■ 『Ωの輝き』 
■ 『知のたわむれ』
■ 『覚のたわむれ』
■ 『現代のたわむれ』
■ 『異常なる感性』
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関連記事:
『Ωの輝き』 《解説(その1)』
『モツニ哲学者、自らを語る(その1)』
「産経新聞はアホや」について
「産経新聞はアホや」(つづき)
『一即一切』について
『色即是空』について
「価値なき神」の哲学日記 bQ09について
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参考文献:

『ヘラクレイトス』        ハイデッガー全集 55巻
『仏教とキリスト教』       滝沢克巳;法蔵館
『続 仏教とキリスト教》     滝沢克巳;法蔵館
『仏教とキリスト教の接点』    八木誠一;法蔵館
『久松真一著作集』        久松真一;法蔵館
『滝沢克巳著作集』        滝沢克巳;法蔵館
『人生の帰趣』          山崎弁榮;光明会編

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『マルコ福音書 上巻』      田川建三;新教出版社
『イエスという男』        田川建三;三一書房
『立ちつくす思想』        田川建三;勁草書房
『歴史的類比の思想』       田川建三;勁草書房
『批判的主体の形成』       田川建三;三一書房
『宗教とは何か』         田川建三;大和書房

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『言葉と物』           M・フーコー;新潮社 
『ソシュールの思想』       丸山圭三郎;岩波書店
『ソシュールを読む』       丸山圭三郎;岩波セミナーブックス
『沈黙するソシュール』      前田英樹; 
『偶然と必然』          J・モノー;みずず書房
『善悪の彼岸』          ニーチェ;岩波文庫
『道徳の系譜』          ニーチェ;岩波文庫

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『精神分裂病 上下』       ビンスワンガー;みすず書房
『精神分裂病』          ミンコフスキー;みすず書房
『生きられる時間 上下』     ミンコフスキー;みすず書房
『現象学的人間学』        ビンスワンガー;みすず書房
『内的時間の現象学』       フッサール;みすず書房
『自己・あいだ・時間』      木村敏;弘文堂

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『ゲーデル・エッシャ・バッハ』  ダグラス・ホフスタッター;白楊社
『意識する心』          デビッド・チャーマーズ;白楊社
『解明された意識』        ダニエル・デネット;青土社
『ダーウィンの危険な思想』    ダニエル・デネット;青土社
『皇帝のあたらしい心』      ロジャー・ペンローズ;みすず書房 
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『集合と位相T』    彌永昌吉、彌永健一;岩波講座 基礎数学
『集合と位相U』    彌永昌吉、彌永健一;岩波講座 基礎数学
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『フロイド選集 (全17巻)』  フロイト;日本教文社;
特に 「自我論」、「文化論」、「芸術論」、「幻想の未来」

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